Politologue Sans Frontieres 「国境なき政治学者」

ペンシルベニア大学政治学部博士課程を卒業し、アメリカ空軍戦争大学で教鞭を取った後、アメリカ中西部のセントルイス大学の政治学部で教えています。国際関係学、安全保障、東アジアの政治学を担当しています。ここ数年は日本の軍事力と文明間の紛争の研究を進めています。 このブログでの意見と表現はあくまで著者個人のものであり、必ずしも関係機関の政策を反映するものではございません。

「二番手」の人生観

2週間ぶりのフィリーから。

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私の人生は、いつも「二番手」の人生である。

これは前の彼女のご両親にのみ話したことがある。もうこのブログを読んではないだろうが、お二人は私が世界中で尊敬する非常に数の少ない方々である。彼らが私を大切に扱ってくださった分、私は今も彼らを大切に思っている。

「二番手」の人生観とは、私は今まで一番になったことはないことから発する。クラスでも、社会でも、恋愛でも、いつも自分の前には、そして上には誰かが一人いて、私はあたかも対抗馬のように苦労し、努力し、そして時には大きな失敗をしているのである。英語で言えば underdog、ドラえもんの漫画に例えると毎回毎回ジャイアンに叩きのめされ、しずかちゃんにふられ続ける「のび太」のようなものである。

私の経歴とこのブログはよく誤解を招く。私にはもう追うべき夢のない先駆者のような人間だと勘違いされる。逆なのである。私はいつも下から上を見続けてきた人間なのである。

学問でも、人間関係でも、自分の前には必ず誰か、自分よりも魅力のある、強い、恵まれた大きなライバルがいる。それが誰だかわからない場合もある。そして残念ながらそれが毎日の私をドライブするスピリットなのである。

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私の博士論文は、ここからインスピレーションを得ている。プライベートとプロフェッショナルは分けているが、自分の置かれた二番手としての立場からどうその逆境を乗り越え、自分の夢をかなえようとするこの過程に強く共鳴する。

世界において弱者が苦境を乗り越える事ほど、これほど不可能でありえなく、刺激的なトピックがあるだろうか。そして、これほど面白い人生にめぐり合えるだろうか。

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今日、フィリー行きのバスの中で、そう考えていた。涙が止まらなかった。

トルコ軍のイラク侵攻

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最近ここワシントンでの安保系の議論は、トルコ軍のイラク侵攻の可能性に言及している。

要は、イラク北部のクルド人地域の政治運動の安定化(鎮圧)のために軍隊を送り込もうとしていること。少数民族であるクルド人の居住地はイラクに留まらず、アルメニア、イラン、アゼルバイジャン、シリア等に存在し、特にトルコには一千万人以上が住み込み国内政治の不安定要素の一つになっている。クルド人の独立運動の歴史は長く、私が3月にベルギーを訪れた際も、首都ブリュッセルにて独立運動を展開していた(ブリュッセル白昼のバイオレンス)。

もちろん、トルコ軍のイラクへの侵攻は、現在イラクにて展開している米軍の作戦に否定的な影響を与える。ここでの関連事項は、現在米下院で議論されているある法案。これは1915年のトルコ国内(オットーマン帝国時代)で行われたとされるアルメニア人虐殺事件で、この法案が可決されれば虐殺問題に対する国際非難が再燃することが必至なため、今トルコはワシントンでロビイストを大量にハイヤーし、この法案を消そうと必死になっている。私は現時点でこの二つの事例に直線を引くことを躊躇うが、可能性は否定できない。米議会を牛耳るイラク戦争反対派の民主党員にとってはこの法案は有効な手段に違いない。虐殺の法案を通せばトルコはイラク侵攻米軍の撤退の時期が早まる→来年の大統領選挙を狙う民主党候補にとっては追い風。

クラウゼウィッツの言うとおり、戦争とはやはり政治問題の延長戦である。

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ここで新しいブログに移ってから書いた国際関係系のエントリー集。

1.東アジア共同主義―発展過程における紛争とその対処―

2.コロンビア大での興味深いイラン議論

3.勇気と学問、日米安保絶対論

4.戦争を起こ「さない」イスラエルの先制攻撃

戦争を起こ「さない」イスラエルの先制攻撃

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今回はいつもと違って真面目に国際情勢を。

事後1ヶ月以上経過しているのに、未だに大きなニュースとして扱われていない事件の一つに先日のイスラエルによるシリアへの先制攻撃がある。確かに世の中はイラク戦争に讀賣巨人軍の優勝、サルコジ大統領の離婚騒動にゴア前副大統領のノーベル平和賞受賞など、様々なニュースが飛び交っているが、本来ならば特筆されるべき重要な事件がマルチメディアに姿を現していない。

何が起きたかというと、去る9月6日の深夜、イスラエル空軍のF15戦闘機(写真)がシリアに侵入、北部の軍事基地を攻撃し無事帰還したこと。この軍事基地はその3日前に北朝鮮から核物資が届いたと情報網では信じられていて、ここ数年噂になっているシリアの核開発問題を助長する役割を果たしていた。パレスチナ、イラン、そしてレバノンからの攻撃を恐れるイスラエルにとってはシリアの核兵器は国家としての生存ノ関わる政治的・軍事的脅威であり、問題が悪化する前に先制攻撃という手段を用いてそれを一時的に排除する決定をした。

ここで興味深い点がいくつかある。

.アメリカにとってイスラエルは重要な中東の同盟国だが、ブッシュ政権はこの事件に関してコメントを出していない。イスラエルの先制攻撃を支持するべきか非難するべきか反応に困っている。

先制攻撃が黙認されれば、今後の国際政治にある程度の影響を与える。先制攻撃という手段は一般的に非難されている政策だが、これが今後政治の中で受け入れられる可能性が高まる。オシラク(1981年のイラク核施設へのイスラエルの爆撃)など過去の例はいくつかあるが、今回の事件もそのリストに加わる。Strike first, and you can get away with it!

.では過去に何度も噂になっている、アメリカによる北朝鮮の核施設への先制攻撃(いわゆる surgical strike)に現実性が高まるかもしれない。

.一番興味深いのは、先制攻撃があったにも関わらずそれ以上の軍事的発展が欠陥していることである。戦争にまだ踏み入ってないのである。

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私は軍事問題を研究する人間として、戦争の原因は広く深く勉強したつもりである。国際関係学、政治学の文献を見ると戦争は一般的に複数の問題から発生する(例:経済封鎖、文明の衝突、安全保障のジレンマ、政策の誤解など)。これらの要因の中では先制攻撃はほぼ確実に戦争を起こす力がある。にも関わらず結果は今のところ逆である。シリアにとってみれば、売られた喧嘩を買わないのである。なぜか。

考えられる理由はいくつかある。

勝敗の計算。当然、イスラエル相手ではシリアのみでは苦戦する。テルアビブには核兵器も温存されている。負ける戦をなぜ起こすのか。

.イスラエルからの先制攻撃を国際的に認めることは、シリアにとって北朝鮮との核関係を露呈することになる。攻撃の被害は、世界の非核運動を逆なですることにより発生する外交的コストと比べて少ないのかもしれない。

.反イスラエル体制でシリアに同情する中東の国家は多いだろうが、イスラエルにはアメリカも付いている。中東で戦争を起こすのなら次の行動が読みづらいブッシュ政権時に狙うのでなく、ヒラリーの時だろう。

答えはまだ出ない。情報は少ないが見守っていよう。そしてこの平安が続きますように。

写真:F15ストライク・イーグル(http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/f-15-pics.htm

PS.この音楽聴くと落ち着く。
Enya - Caribbean Blue

今月の予定・ワシントンのソフトボールの秋

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今朝は病み上がりの体を引きずって職場へ。仮にプリドクの応募の締め切りに間に合わなくても(間に合いました)、博士論文が進んでいなくても、鼻水が垂れていても、ソフトボールの試合だけは逃せない。もうすっかりチームに溶け込んだ。参加して早一ヶ月、顔も名前も守備位置も(サードかショート)覚えられ毎週末楽しい。今日は高橋由もビックリの先頭打者ホームランを打った。最終的な打率は5割を超す。ソフトボールだから当然。

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先週に続いて来週も半ばにフィリーに戻る事になった。重要な会議に参加予定。一泊してきます。その次の週は、24日辺りから約5日間フィリーに滞在予定。うちの大学の教授がしばらく留守にするというので、その人の家に泊まりつつ飼っている犬の面倒をみる事になった。車を貸して頂けるのでフィリーで久しぶりにドライブができる。そして10月の最終週から一週間、パリに遊びに行ってまいります。

写真:ワシントンの地下鉄にて

(意外な一面)×4

今日は意外な面を4つ。

1.日本にも少しずつ浸透してきたフェイスブック。私も当然やっている。ただ意外な点は、多くの教授もやっていること。今朝見てみたら、私の博士論文の4人の指導教官のうち3人もやっていた。学部長さえも! 早速リンク申請。

2.このブログに書くことは硬派だが、私の好きな食べ物は甘いものである。あまりに甘党なので、普段使っている歯磨き粉さえも、子供の時に使っていたメロンやストロベリー味になって欲しいと本気で思っている。

3.プロフィールには書いていないが、高校2年の時にはダンス教室に通っていた。その名もファンキー・ジャズ。今でもテクノ・ハウス系のステップは踏める。

4.好きな音楽はスムーズジャズとエンヤ。

5.スポーツには自信があるが結構体を壊す。最近は季節の変わり目で、昨日は急激に気温が下がったためその変化についてゆけず、ついに今日はダウン。自宅にして仕事中。グラントの応募に追われて大変なこの時期に風邪とは…。風邪

人間は5年経つと…

今日ようやく今年最初のプリドクの応募が終わった。グラントの申請ってかなり大変なのが分かった。そしてこれで終わりではない。今後様々な水面下での活動が要求され、同時に他のフェローシップへの応募も進め、博士論文を仕上げる毎日が続く。

午後2時から、コロンビア時代からの友人のキムと再会。何でもお隣りのブルッキングスであのポール・ボルカー元連邦準備銀行議長との昼食会に参加するためにニューヨークから駆けつけるとの事で緊急で再会をセットアップ。そりゃあのなく子も黙る(俺は黙らんが)高級情報誌エコノミストのインテリジェンス・ユニットで上級編集者でもやってればそんなランチにも招待されよう。彼とはちょうど5年前に同期で卒業し離れ離れになっていた。私と同じ現役の政治学部の博士候補だが(別の大学)、最近ニューヨークに引越しこの仕事をしている。人間は5年経つと成長するもんだ。彼も人生を楽しんでいるようで良かった。コーヒー飲みながら2時間話してニューヨークに戻っていった。

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ようやく終わったと思ったら、明日提出の別の応募書類に気がついた。今夜は徹夜の予感。泣く

ブア・イギリス・ブルッキングス

プリドク応募用の書類提出を翌日に控え、今朝は疲れた体を引きずって仕事場へ。正午からは5年来の友人のソロブと再会、懐かしのタイ料理屋ブアにて昼食を取った。ソロブは、日本政府もお馴染みで毎日購読しているあのネルソン・レポートの監修者のオフィスで働いていて内部事情に詳しい。話した内容はここ数年のお互いの変化と国際事情。毎月一度の昼食会を開く約束をして別れた。

タイ料理を堪能した後は、2時から私の昔の生徒が推薦状をピックアップしに私のオフィスに来た。イギリスの大学院で国際関係学を志望するこの生徒の相談に簡単に乗って30分。ケンブリッジ、キングス・カレッジ、LSEの合格は堅いだろう。頑張れ。

その後は3時ごろに隣のブルッキングス研究所を訪れ、友人のエリンに先週末のソフトボールの道具を返し、そのまま研究所内を徘徊。国際関係学の本を数冊頂いた。最後には一階の本屋で働く友人のフレッドに4年ぶりに再会。彼も私の事をよく覚えていてくれた。ここだけの話だが彼にはよくただでブルッキングスの最新本をもらってたね丸秘

プリドク・プリドク・プリドク・ソフトボール

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プリドクの応募の締め切りが近づいている。10ページの研究提案書を作成するのに時間がかかっている。現行の博士論文の内容がそのまま掲載されるので、確かにそれをコピペすれば楽なのだが、なにせ研究が流動的なため(毎日常に進歩しているから)、それに合わせて原稿を書くのが大変だ。更に、応募先は非常に競争率の高いみんなも知っているあの大学なのでプレッシャーも強い。

ただ、今回の締め切りはあくまでも今年最初のフェローシップであって、これから来年の2月にかけて他の大学のプリドクも応募するため、今回良い土台を作れば今後楽になることになる。

他の資料はほぼ揃った。推薦状3通、通知表、カバーレター、そしてCV。提出は明後日木曜日。

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ここで一つご連絡。

私が参加しているワシントンのソフトボールのチームが新しいメンバーを募集しております。興味のある方はお気軽にご連絡下さい。

このチームはワシントンの複数のシンクタンクに在籍する有志が、シンクタンクの枠組みを超えて集まったチームで、現在の参加者は12?15名です。毎週土曜日の午後1時ごろからデュポン・サークル近くの公園で集まりピックアップのゲームを行っております。メンバー全員とも非常にフレンドリーかつオープンで、私も数週間前に初めて参加したのですが、誰一人知り合いがいないのにも関わらず暖かく迎えてくれました。

メンバーの年齢層は20?40歳あたり、男女比はほぼ1:1です。初心者ももちろん歓迎です。グローブもバットも余っておりますので手ぶらで参加されても構いません。必要なのはスポーツの秋を謳歌するスピリットと動きやすいシューズだけです。スポーツを通しワシントンに散らばる数多くのシンクタンク内での友好関係を広げる絶好のチャンスです。時間と興味のある方は是非参加下さい。宜しくお願いします。

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写真は何も関係のない去年のスワモスで撮ったもの。コーネル大のキャンパスにて。世界で最高の夏季軍事演習講座。そこで生涯の友人を得れて嬉しい。左上から時計回りでジェイソン、私、デービッド、ダニエル、クリスティ、エリザベータにセルジオ。

Live from CDI, it's Columbus Day!

今日は珍しくオフィスから。

最近このブログの更新率高いでしょ。一般的に、アクセス数が昇れば更新率も高まります。期待に応えて。毎回面白い事書ける自信はないけれど、頑張るよ。

とは言っても今日は疲れてる。今日は朝からホテルで開かれた非対称戦争に関する学会に参加、珍しく無料の昼食食べずに会場を出てそのまま出勤。普段の私はカジュアル系のシャツ着てニヤニヤしながらDC市内を闊歩するのに、最近は悩み事もいくつかあって体にきた。今日は Columbus day という祝日も仕事。プリドクの応募の締め切りも間近。博論も頑張って書いている。少し休みたい寝る

勇気と学問、日米安保絶対論

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私が人間を評価する際に探す価値観はいくつか存在するのだが、その中の一つとして勇気と度胸がある。

これは一般的にそうだが、学者に対しても同じ事である。学問的な問題を引き起こすと分かっている立場を、科学的に証明する必要とその可能性、そして現実性がある場合、あえて危険を冒して難しい主張をし、結果として総合的に良い意味での学問的な物議を醸す効果を起こす。既に一定の意見を主張し学者としての立派な立場を形成している「強者」にとっては、このような弱者的なチャレンジは迷惑なものなのだが、立場の枠組みを超えればこのような競争を経て学問が進歩するのは明らかである。

アメリカの国際関係学では、ここ数ヶ月の間、これに似たような現象が起きている。アメリカの外交政策とイスラエルのロビー活動に関する議論で、簡単に書くと、アメリカの中東政策はワシントンを中心とする親イスラエル派ロビーグループによって強く影響され、それはアメリカの中東政策に関して否定的な影響を及ぼしている、との主張である。もちろんこれは政治学や国際関係学の分野だけでなく一般的な政策論に広がり、一定のサークル内で大きな論争を起こした。

私は特にイスラエル・ロビー論を強く信じるものではないが、その主張には強い説得力があり関心する。また、確かにこの主張をする教授は政治学の中でも既に影響力のある人間なのだが、今まである意味タブーとされてきたロビー論に、危険だと分かりつつも新たな視点を導入し、結果として政治学内で刺激的な議論を起こしたことは賞賛に値する。

私も彼らのスピリットを受け継ぎたいと思う。私は軍事学をできるだけ政治学に導入させようとしている点で既に(日本では特に根強い)一定の学問的枠組みから離れたことをしているのだが、他にも例えば日米安保の件がある。私の過去の政策空間での論文を読めば明らかだが、私の基本的な立場は一般のそれとは違い、非常に懐疑的である。

例:テロリズムと日本の安全保障政策

日本の新聞を読んでいると、中道もしくは右寄りの意見で、日米安保が日本の国益に直接的に結びつくという見方が非常に強い。場合によっては左よりの記事もそのような立場を取る。この一貫性には驚くべきである。911の同時多発テロ後、特に国内での議論を行わずに自衛隊の派兵を行い正当化し、今のアフガニスタンでも大した結果が出ていないのにも関わらず、議論という議論さえ出てこない。イラク戦争がこんなに失敗しているのにも関わらずである。私は特に民主党の小沢氏の外交政策に賛同はしないが(特に彼のISAFへの派兵論)、この日米安保絶対論はそのうち見直されるべき議論だと思う。少なくとも学問の世界では。

このネタに興味のある方はお気軽にご連絡下さい。

写真:懐かしの去年のスワモス。後ろはジェイソン、ネギーン、案内人のスティーブなど。
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