Politologue Sans Frontieres 「国境なき政治学者」

ペンシルベニア大学政治学部博士号取得→アメリカ空軍戦争大学勤務→現在はセントルイス大学の政治学部准教授及び国際関係学科主任。専門はサイバー、国際安全保障。航空自衛隊幹部学校客員研究員(2016-18)

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2013年02月

尖閣を失う日本

先日このブログでも軽く宣伝しておいたが、今回はここ数ヶ月の間物議を醸し続けている尖閣諸島の問題についてのフォローアップしたい。日本政府の見解では尖閣関連の紛争を「問題」として見ていないようだが、それこそ問題の一部だろう。世界が問題視する領土紛争の存在を否定し続けることにより、世界の見方とのギャップをわざわざ広げているのである。これでは日本がどう主張しようが、その対外宣伝の影響力は徐々に弱くなる。

大きな問題の一つに、尖閣に関する国際世論の形成と情報戦争に日本は遅れているというのがある。中国や韓国が各々の国のメディアのみでなく、他国の媒体やインターネットで英語を使い大体的に各々の国益を主張しているのに対し、日本外交の声は聞こえてこない。The Diplomat など、アジア全体の安全保障問題を扱う人気ブログでは日本の主張を揺るがす情報や記事を毎日のように載せ(他のアジア諸国のもあるが)、若い世代を中心に実質的な反日宣伝活動が行われている。外務省ウェブに載っている尖閣に関するQ&Aは丁寧で内容もしっかりしているが、それはあくまで外交レベルのものであり、実際の尖閣地域での動きや、インターネット上でのやり取りでは日本の思うとおりには動いていない。また、尖閣問題の存在を否定する日本の見方よりも、その存在を攻撃的に宣伝する中国側の声のようが、よく聞こえている。

もう一つの問題は、尖閣地域での日本の弱い対応にある。数日前に起きた自衛艦への射撃レーダー照射事件にしても、度々起きる中国籍船舶の日本エリア進入にせよ、単に抗議をしたり謝罪を求めるレベルでは極めて防衛的であり、領土保持への積極性が感じられない。官邸や外務省のみで効果がないのなら、海上保安庁や自衛隊に期待したいのだが、彼らの行動は法的に、経済的に、そして政治的にあまりにも強く拘束されている。中国からの領土侵犯を抑止し、日本政府が考える領土の防衛をするために必要な軍事力を示すことができていない。今のままの防衛対策では中国側の動きは今後も加速することが容易に予想できる。ランド研究所が10年以上前に出した中国の南シナ海でのサラミ戦略に関する報告は良い参考になる。

更に重要な要素の一つに、日米関係がある。このブログを円滑に運営するためアメリカ政府の政策に関して直接言及は避けるが、アメリカのどちらかというと不透明な対応に日本が苦労しているのは理解はできる。ただここでの問題は、安倍政権は主権防衛の観念よりもアメリカ追随外交の傾向が強く、アメリカを困らせない配慮を中心に対尖閣政策を考えているふしがある。言葉を変えると、対米外交があまりに重要なため、対中問題を悪化させアメリカの懸念を増加させるよりは、日本の主権を弱体化させることにより、尖閣における中国支配を強めるというコストを払いながら、それでもアメリカ側の言う事を聞き続けるという、領土を同盟強化と取り替えるやり方が進んでいる。

安倍政権は入閣後、強気の対中戦略を取るのではなく、できるだけ柔軟に中国に取り合う態度を示してきた。先日のロックオン事件への最初の対応も、本来なら強気の態度が必要な場合に、日中ホットラインの形成という逆に融和的な打開案を提案している。相手側の弱みを常に探している中国にとってこの種の態度はやり易く、アメリカ側に事態の安定化を求められている安倍政権に対し、今後も強気の行動をとり続けることが予想される。

私個人の見方では、このままの政策では今後数ヶ月の間に、尖閣諸島における今の日本の実質的なコントロールは少しずつ弱まり、大規模の戦争には発展しないまま、徐々に日本政府の影響力の低下を引き起こし、今まで通りの尖閣に関する日本の主張が国際間で通用しない、日本にとって不利な状況が生まれるだろう。今後、少しずつ尖閣状況が落ち着くにあたり、日本国民、そして世界からの注目が他のアジェンダへ移る一方、中国側の侵入は数と規模を増やし、日本の尖閣への実際的な影響力は気付かれることなく低下すると見ている。とりわけ新しい主張でないのは分かっているが、現在の日本の外交政策に極めて懐疑的な考えがここにもあることを記録しておきたい。

日本のソフトパワーはいずこへ?

ジョージ・ワシントン大学政治学部教授の David Shambaugh 氏の新著、China Goes Global を読んでいる。同感する部分が多く、彼のような専門家がそう主張してくれて嬉しく思う部分もある。

読んでいて、245ページ目が一つ気になった。世界における中国の文化的プレゼンスを分析している部分なのだが、中国はその言葉や文化を世界中に広めるため、大金をはたいて世界中の大学や研究機関に Confucious Institute という独自の研究所を開き、今日その数は350以上に上る。私の勤務地からそれほど遠くない、オーバーン大学モンゴメリー校(という、ほとんどの日本人が知らない大学)にでさえも、孔子研究所を設立している。ただこれは中国のみのプロジェクトではなく、他にもドイツのゲーテ研究所、フランスの Alliance Francaise、そして失礼な書き方になるが、経済事情が悪化しているスペインでさえも、Instituto Cervantes というスペイン語や分野を広めるための研究所を23カ国、38の場所で経営しているという。ここで日本関係の研究所は言及されなかった。これらの機関の日本版を考えてもみたが、思い当たらなかった。あったとしても、専門家の間では特に強い印象を残していないのではないか。

ここ数年は日本のソフトパワーの研究も進んでおり、いくつか重要な出版物も目にしている。ただその多くはアニメやら相撲やらODAやらツーリズムやら桜祭りやら、世界のパワーポリティックスに真剣に関与し影響を与えるようなやり方で実践されてきているとは思わない。逆にソフトの部分に頼りすぎて本来あるべきシェリングが言うような強制的な(coercive)エレメントが欠けている。

例を挙げると、ペンにいた数年前、ニューヨークの日本総領事の代表が来校し日本外交の講義を大講堂でした。日本の外交全般に関する大きな講義だと思っていたが、その話の内容の大部分は日本のスポーツについて。イチロー選手や当時の松井選手らを用いて日米の外交を強化するという、真剣な話を聞きにきた、多くのアメリカ人講義参加者を半分馬鹿にしたような内容で驚いた。

多くのアイデアを出し、いかに日本の外交やその魅力を世界に広めようとするのは理解できるが、スマートパワーの議論でも明らかな通り、ソフトのみでは世界レベルの外交に飲まれこむのは時間の問題だろう。また、そのソフトの部分でさえも、投資している分だけ効果があるかは疑問の残る点である。

博士号取得者の何%が大学教授になるか?

今日付けの The Atlantic で興味深い記事があった。全ての学問分野を見て、博士号取得者の何%が大学教授になるか、というアンケートの結果である。2011年における政治学含む社会科学の平均はなんと26.5%。シンクタンク、政府、一般企業、進学(ロースクール等)が他の就職先として考えられるが、私の見方では意外に低かった。

社会科学よりも割合高かったのが教育学部と人文学部。逆に工学系は低く、5パーセントだった。

How Many Ph.D.'s Actually Get to Become College Professors

先週末のアトランタ

先週末は3連休を利用してアトランタへ。3ヶ月ぶりくらいの訪問である。

2時間ほどのドライブを経て最初の目的地の IKEA へ。今回は引越し先のインテリアを考えながらのショッピングだったので、普段よりもゆっくりと時間をかけて店内を回った。写真は店内から見えるアトランタのダウンタウン。

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会計の後はローズヒップのジュースを見つけて飲んでみた。意外に美味しかった。

その後はダウンタウンに向かって車を発進。短い間だったが Lenox Square のモールにある、Pottery Barn に寄った。写真はその店内。

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その後は再び車を走らせて夕食へ。他のブログでも紹介されている、ドラビルにある Yen Jing という中華料理店。我々が着いた時はは他に客がおらず、ガランとした雰囲気だったが、夕食時間に近づくと客も増えてきた。

我々は有名な餃子にラーメンを2杯オーダー。量は多めなので一人一杯で十分だった。

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その後はホテルにチェックインしてそのまま就寝。翌日は朝はゆっくりし、Trader Joe's、Whole Foods で買い物をし、サークル寿司でいつも通りちらし寿司でランチ、そして H Mart を連続して回って食材を購入。疲れる前に高速に乗って車を飛ばして帰宅。

なめられる日本の外交

日本の外交はなめられている。これはもちろんアメリカ政府の見解ではなく、私の個人的な見方だが(そう見ている人間は私だけでもない)、ブログの読者は知っている通り、このブログで何度も出てきているテーマのひとつである。

アメリカの軍隊で教鞭を取っていればこの種の見方に簡単に遭遇する。ただ、今日私が出席した空軍の会議でもこの点があからさまに伝えられた。普段から尖閣は日本の領土だと主張している日本政府の見解は実は海外では効果的に伝えられていない。事実、こんなことが普通に起きているのである。

詳しいことはもちろん書かないが、今日扱ったシナリオでは日本の外務省の主張など完全に無視で、既に中国がほぼ完全に尖閣地域を制圧しており、ほぼ自由に行動を取れている状況だった。日本の自衛隊が動ける隙間さえなかった。なぜこんなことが起こりうるのだろうか? 日本政府が海外でしっかり闘い、国益を主張し領土を守っていれば防げる問題である。

私は自分の現在の立場上いくつかの制約があり、必ずしも日本にとって最大の利益をもたらすような方法でアメリカ空軍の教育課程に影響を及ばそうとはしていない。私には自分の任務があるからである。だが日本外交のあまりのだらしなさと、それを当然かのように黙認する日本国外からの主張は受け入れがたく、今日は私よりも上の立場にある人間に対して反対の主張をした。議論の相手は中国側の主張を強く押し付け、そのままシナリオを完成させようとしていたが、私は自分の知る限りの事実関係を確認しながら、強く出るところはしっかり強く出て、本来あるべきの状況に戻すことに成功した。私のように特に重要なポジションにはない人間でさえ、こんなところである意味日本の国益と国民のために闘わなければならないのである。

日本国内では大量に予算を浴び、エリート機関の最高峰の一部として大きな態度をとることの出来る外務省も、海外では全く違う姿を見せる。海外で仕事をしない日本人の方々はその点に気付いて欲しい。日本での受験戦争や一般知識などの面では能力が高い個人が多いが、外交官は一般的に、海外では英語や文化、適応力などの問題も多く、期待されているほどの効果は出せていない。外務省批判はこのブログ以外でも多く、絶えないが、私は特にその政策の中身と、その政策のコミュニケーションと実行の仕方に大きな問題があり、誰もそれを特に直そうともしていないと見ている。

また、海上保安庁をはじめ、外務省以外の政府機関の法的制約を改正し、より自由に日本の領土を守るべく変革が必要だと感じる。

この点については数日後、このブログに書きたいと思う。

海外出張の写真(フィリピン編)

前回に続いて今回は去年のフィリピンでの2枚。掲載できるのを選ぶとこんなに少なくなってしまった。

首都にマニラにて。鉄道駅の近くにはいつも写真の背景にあるような安ホテルや歩道橋がある。この一枚は我々のバスの中から撮った物。
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日帰りでコレヒドールに行った時の一枚。現地ガイドの説明を聞きながら島全体をバスで回る。途中、日本兵の墓場や記念碑、トンネル、そして写真のような砲台など見ごたえのある場所も多い。昼食は景色の良いレストランで取った。
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海外出張の写真(タイ編)

去年に出張で赴いたタイで撮った写真があったので、今回はそれを掲載。去年載せた文は、ここと、ここと、ここを参照のこと。次回はフィリピンのを載せる予定。

まずはバンコクのエメラルド寺院にて。ガイドさんの解説を聞きながら生徒らと一緒に寺院を周る。
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私を除いては本当に人相に問題のありそうな連中ばかり(ニヤリ)。それでも皆立派なシニア・オフィサー。
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同じ寺院でガイドさんに花びらのむき方を教わる我々一行。
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次はバンコクからバスで片道3時間のカンチャナブリ。映画「戦場にかける橋」の舞台。この水上屋台で皆で昼食を取った。
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最後の一枚はタイ・ビルマ鉄道博物館近くにある、Hellfiire Pass にて。
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安倍首相のワシントン訪問に関する小論文

今月下旬に行われる予定の安倍首相のワシントン訪問に関する小論文を読んだ。一国の首長がアメリカ大統領の注目を得るのはどの場合も難しいが、今回はいつもに増してチャレンジが多そうだ。

安倍総理訪米を見るワシントンの冷めた視線

特に、

「つまり「安倍総理が今の時期にオバマ大統領に会って何がしたいのかよくわからない」」

の部分は大切だと思う。もちろん米政府が必ずしもそう見ているかどうかは別の話。

日本の大戦略の小論文

MITのリチャード・サミュエルズ教授による、日本の大戦略に関する小論文。よくまとめられているが、詳細が少ないので深く読みたい方は引用されている論文を参照のこと。

Japan's Shifting Strategic Discourse

映画「ボーン・レガシー」

週末観たのは前から楽しみにしていたボーン・レガシー。予想通り楽しむことができた。ボーン・シリーズでは定番のことだが、良かったのはやはり幾つもの国境を渡り現地で言葉や文化と格闘しながらアクションを繰り広げること。ハート・ロッカー後大売れのジェレミー・レナーも全盛期のマット・デーモンには及ばないが、最初のボーン・シリーズとしては満足のいくパフォーマンスだったと思う。

前半の舞台はアメリカで後半はフィリピンのマニラ。私も3度行った事のある(例えば2011年8月)街で親近感が沸き、余分に楽しむことができた。一部はおそらく地下鉄の Taft Avenue/EDSA でも撮られていただろうし、ジープニーやスラム街の映像も良かった。

ただ、一つ気になったのはマニラという海外であそこまでアメリカ人(と考えられるエージェント)が一般市民や地元警察に対して暴力を振るい大暴れをすること。CIA のスタンダードは分からないが、国防総省のプログラムでは極めて珍しい例外を除いては考えられないことである。海外活動中の言動に関しては私も毎年何度も様々なトレーニングを受けるので、これは分かる。また、諜報系の人と直接話せば分かることだが、活動中に暴力を用いる結果になればその時点で(というか、拳銃を使う時点)そのプログラムが失敗したと見ることがほとんどである。
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