Politologue Sans Frontieres 「国境なき政治学者」

ペンシルベニア大学政治学部博士課程を卒業し、アメリカ空軍戦争大学で教鞭を取った後、アメリカ中西部のセントルイス大学の政治学部で教えています。国際関係学、安全保障、東アジアの政治学を担当しています。ここ数年は日本の軍事力と文明間の紛争の研究を進めています。 このブログでの意見と表現はあくまで著者個人のものであり、必ずしも関係機関の政策を反映するものではございません。

2014年07月

記者からのインタビュー

10月に出版される私の本に関して、大学出版会から連絡があった。軍事史の記事を書いている雑誌記者が私の本の事を聞き出し、興味を持ってくれたようだ。本の内容に関して幾つか質問をしたいのだと言う。

快諾した。良い宣伝になるのだろう、出版会社も喜んでいる。

今朝早く、記者は10個ほどの質問をメールで送ってきた。こちらにとってはいい機会なので真面目に答えると、大変な作業になった。本の最終ゲラを引きずり出し、内容確認しながら丁寧に一つ一つの質問に答えるのに3時間ほどかかった。

内容は非対称戦争の話が中心で、過去の出来事を元に現在どのような考察をすることができるか、という質問が多かった。なのでアフガニスタンやイラクに関してはもちろん、無人戦闘機や民間軍事企業の話まで及んだ。ここ最近はアジアに関する研究に時間を割いていたので良い意味で自分の専門分野に戻ることができた。

スノーデンのルービック・キューブ

先日書いた、グリーンウォルドの新書を読了。新しい情報満載で面白かった。特に彼とスノーデンが知り合う部分と、香港への渡航の過程、そして香港での共同作業の部分などは新鮮な情報が多かった。

これは他の媒体でも書かれているが、やはりスノーデンは単なる技術屋ではなく、それに加えて諜報活動のトレーニングを受けているようで、それが現れる部分が幾つも書かれていた。今回の騒動は近い将来映画化されるのではないかと思う。

この一冊のキーワードをあえて一つ挙げるとすれば、グリーンウォルドとスノーデンの最初の密会で使われた、「ルービック・キューブ」だろうか。そしてスノーデンは香港のホテルからメディアを巻くために乗ったタクシーの前で既に、変装している。

この本では中盤は今回明るみに出たプログラムの幾つかを検証し、後半部分ではアメリカのジャーナリズムや個人のプライバシーの話がされている。個人的にはスノーデンとの香港以降のやり取りにも興味があったが、書けない部分や公表できない面もあるのだろう。

読んでいて、2か月前に読了した「レッド・セル」を思い出した。この一冊はフィクションのスパイ物語で、ワシントンや北京を中心として様々な活動が記されている。スノーデンのように主人公は変装もするし、その詳細も詳しい。

あまりない自由時間を使って読んだスパイ関係の図書は、ここ数か月でこの2冊だろうか。

私の目を見ずに話をする人

今週は職場で中々面白いことがあった。

この夏の間、一時的に行っている授業の一環で、今年度の新しい学生の口頭発表を聞く機会があった。聞く側は私と二人の大佐を含めた3人の教員で、発表する側は今年の私のゼミにいる16名の学生である。学生は2人の民間人を除けば残りは全員中佐もしくは大佐の軍人幹部である。3分ほどの口頭発表を一人ひとりにやってもらい、こちら教員がコメントを与えるというものである。

今回私が面白いと感じたのは、16名のうち、2・3人ほどの軍人の学生が、約3分間の発表の最中、私「以外」の教員にずっと視線を合わせ、私には一度も目を合わせることがなかった点である。コミュニケーションが普段から大切だと言われている組織で、この種の扱いを受けるのは珍しく、私はなぜそうなったか疑問に思った。

もちろん、アメリカで数年過ごしたことのある日本人なら分かるだろうが、一般的に日本人は英語の能力が低く、それを知っているアメリカ人は(他の欧米人も含む)、グループで話をする時に、日本人に目を合わせず話をする場合がある。これは残念なことに、海外で生活する日本人が受ける試練の一つである。もう十年以上もアメリカに住んでいるため、この種の扱いでは私は驚かないし、動揺ももちろんしない。ある意味、いつもの事である。

ただもちろん軍隊では話は別である。そして私は教員である。

不思議に思ったので、一度も目を合わせることなく話を終えた学生に、その旨を指摘し、なぜそれが問題であるかをしっかりと教えた。すぐに彼らも非を認め、理解・謝罪していた。私はそこでなぜそうしたかと聞くと、彼らの過去の経験では、この種のブリーフィングをする際は、その部屋にいる最高位の人間にしっかり視線を合わせる必要があったからだと説明した。面白いものである。彼らの視点では、他の大佐と私は同じ教官であっても、ランクが違って見えるようである。この「仮定」は軍隊で働いていればある程度は理解できるものの、必ずしも正確ではない。

数分後、今度は別の学生から話を聞いた。その中佐は我々教員全員の目をしっかりほぼ平等に見、3分間、素晴らしいブリーフィングをこなした。内容からその姿勢まで素晴らしく、私は賞賛の言葉以外見つからない。

ただ、その中佐は発表を始める前に、与えられた椅子に座って発表をするのではなく、席を立って発表をしたいと主張した。つまり、座っている我々を見下ろしながら、という事を示唆していた。こちらの命令で結局彼は座って発表をすることになったのだが、後ほど、私は彼になぜ起立して発表をしたかったのかと聞いた。

彼の答えでは、ここに来る前の過去4年間の仕事で諜報活動の仕事に加わっており、その4年間ではボスの前では毎回起立してブリーフィングをしていたようである。あまりにそのやり方に慣れてしまったので、今回のその方法を用いて発表をさせて欲しいと言っていたのである。なるほど、理解はできる。ただ、ここで学ぶ一年の間はできるだけそのcomfort zone から出て、新しい態度で新しいことを学ぶよう、提案しておいた。

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ようこそ戦争大学へ。

4月のオバマ大統領の訪日が意味すること

今回のエントリーは少し真面目に。4月後半に書いた小論文が残っていたので添付します。空軍の許可を経ておりますが、ここでの意見はあくまで私個人のものです。

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4月のオバマ大統領の訪日が意味すること

日米外交はある意味新しい局面に入りつつある。尖閣を日米安保条約第5条の適応対象になるとした4月訪日時のオバマ大統領の声明は、アメリカ議会でのここ数年の議論と決議を踏まえ、両国の代表による交渉で固められてきた日米同盟を更に強化する役割を持つ。


ただ一方で、肝心の尖閣地域での日本の統制力は不十分の状態が続いている。領土保全という観点からは日本独自の抑止力には限界がある。去年の11月に中国が一方的に設定した防空識別圏は日本側から有効な対処法が出せず既成事実化している。防衛省の統合幕僚監部が4月半ばに発表したデータによると、ここ数年のロシア軍機や中国軍機による日本列島付近での活動頻度は増えており、平成25年度における航空自衛隊の戦闘機の緊急発進の回数はここ6年で最高に達した。日本の領土を守るために必要な抑止力が、中国含む近辺諸国のアグレッシブさに追い付いていないのである。


今後の必要要因

今回の第5条の明記について考慮すべきことは、それ自体が自動的にアメリカの軍事行動を引き起こすという保証を意味しないことである。第5条の発動要件として、外部からの武力攻撃の存在がある。もちろん中国側も発動を防ぐために、正規軍以外の手段などを使ってくる可能性があるため、いわゆるグレーゾーンが存在する。加えて、仮に中国からの組織的な武力行使があったとしても、米軍動員のためには自衛隊からの反撃も必要になるだろう。更にはその様な武力行使の場合でさえも、アメリカはアメリカの憲法上の規定及び手続に従って対処するため、そこにはアメリカ国内の政治・経済的制約も加わるのである。


日本にとっては今回のオバマ訪日は日米同盟の強化と中国へのシグナルの送信という目的があるが、アメリカは今回の訪日を地域的な、より多角的なレンズで捉えており、日本に送るシグナルは韓国、中国、そしてフィリピンなどにも同時に向けられているのである。従ってアメリカは中国と今後も経済協力を進める一方で、尖閣含む東アジアの領土問題に対する態度も過去に比べより明確にしている。事実、フィリピンの軍事基地への米軍のアクセスもマニラとの合意を経て、今後は米軍のプレゼンスが強化されることになるだろう。


集団的自衛権の行使容認の議論が進み、自衛隊による国連平和維持活動での武器使用制限が緩和の方向に進み、4月1日には武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則が閣議決定された。離島防衛体制の法改正の話が進み、自衛隊法に対抗措置を新設する方針を固めた。しかし日本独自の防衛制度は不十分に見える一番の根本となっている憲法9条の改正に関する議論は膠着状態が続いている。また、国民総生産の1%以上は防衛予算に使えないという、冷戦時代から続く対外的な配慮も未だに残っている。尖閣の事実上の無防備状態は今後も続くのである。


外的要因と東アジアの安全保障

一方で日本国外の情勢も変化が続く。アメリカの「アジア回帰」が始まって3年ほど経つが、アメリカの軍事的な動きはオーストラリア、フィリピンやシンガポールなどで見られる一方で、アメリカの戦略的意図を理解するのは難しい。アメリカの Foreign Affairs 誌の5月・6月号では知日派と呼ばれるカート・キャンベルとイライ・ラトナーが、アメリカのアジア回帰のディフェンスをしているが、アメリカ国内でもアジア回帰に対しては専門家の間で様々な意見が交換され、十分なコンセンサスは得られていないのが現実である。ここ数年の中近東、南アジア、そして東欧での不安定な政情、そしてアメリカ経済の破綻、軍事予算の削減とその長期的なインパクトを考えれば、あの時点でのアジア回帰は理解できる一方、それが今後どれだけ持続可能かに関しては強い疑問が残る。


東アジアサミットや環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などの強化を通して、アジア太平洋には今後も関与していこうとのアメリカの意図があるのに関わらず、東アジアの多くの国々はアメリカの外交政策の不透明さに懸念を抱いている。一環したコミットメントのシグナルを送り続け、東アジア諸国の不安を払拭するのはそんなに簡単なことではないのである。


最近のウクライナが意味すること

アメリカの戦略的意図が不透明であるとの点については、3月に私が台湾の防衛関係者と意見交換した時も感じられた。彼らが特に興味を持っていたのは、今回のウクライナの混乱に対してアメリカがどのような対応を取るかという問題だった。台湾から見る場合、ウクライナの情勢が台湾地震の戦略的状況と被る部分があるからである。つまり、ウクライナのような地政学的に重要な地域の「非」同盟国に対して、アメリカがどのような戦略的思考をしているのか、そして有事の際の台湾海峡でどこまで台湾、そして東アジアの秩序を守る意思があるのか、同じ非同盟の関係にある台湾としては大切なサバイバルの問題だからである。


もちろん、現在の台湾は馬英九政権の下、中国側と経済・文化交流を強化しつつ、政治的には現状維持の政策を取り続けている。武力行使もしくは台湾の一方的な独立の動きを最小限に抑えることにより、台湾海峡は今、政治的に安定している。ただ同時に中国人民解放軍の増強に従い、中国との軍事アンバランスはここ数年で開いてきている。東ウクライナやクリミア半島で見られたような内紛が仮に台湾で独立運動の形で発生した場合、中国軍が台湾を制圧しに来たときのシナリオは恐ろしいものになるというのは理解ができる。


日本でもウクライナでの出来事が日米同盟に何を意味するか心配する声もあるようだが、ウクライナと日本の間には大きな違いがある。ウクライナと違い日本はアメリカの同盟国であり、経済大国である。クリミア半島には元々ロシア人が多いのに対し、尖閣は無人島である。また、クリミア半島という大きな地域をロシアが事実上併合した一方、尖閣は小さく、日本領である。ロシアはウクライナのエネルギー資源を牛耳っているが、日中間の経済相互関係はそこまで偏ってはいない。従って今回のウクライナの情勢は将来の日米同盟にはとりわけ有益な分析モデルにはならないのである。


まとめに代えて

日本の防衛政策にはある程度の変化が見られる一方、今後それらが十分な働きをするかはまだ不明な部分が多い。今後も中国は尖閣沖での活動を更に活発化するだろうと仮定すれば、一連の変化は果たして十分であるかに関しては自信が持てない。日米同盟の進化に並行させる形で、日本国内の防衛政策をより早いペースで整え、自国の領土保全をより完全に守るべく、必要な準備と対策が必要になってくるだろう。そのような意味では、今回のオバマ大統領による訪日は良い方向に進めることができるのではないかと思う。


ここでの表現と見解は著者個人のものであり、必ずしもアメリカ政府、国防総省、もしくはアメリカ空軍戦争大学の政策を反映するものではございません。

Glenn Greenwald の No Place to Hide

前から気になっていた Glenn Greenwald の No Place to Hide が図書館に届いたというので早速借りて読んでいる。解決までには相当の時間を要するであろう今回のNSA・スノーデンの問題には不透明な部分が非常に多く、スノーデンとタッグを組んで中心人物の一人になったグリーンウォルドの視点には興味がある。

この本から何が学べるか注目している。

No Place to Hide, Edward Snowden, the NSA, and the U.S. Surveillance State.jpg

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