Politologue Sans Frontieres 「国境なき政治学者」

ペンシルベニア大学政治学部博士号取得→アメリカ空軍戦争大学勤務→現在はセントルイス大学の政治学部准教授及び国際関係学科主任。専門はサイバー、国際安全保障。航空自衛隊幹部学校客員研究員(2016-18)

経歴・学術論文等はこちら:https://researchmap.jp/katagirinoriyuki

ツイッターはこちら @norikatagiri1。

執筆、講演等の仕事の依頼は nori.katagiri@slu.edu までお願いします。

研究者の方々へ、Global Studies Quarterly (https://academic.oup.com/isagsq) への寄稿を是非ご考慮下さい。副編集長として編集作業に携わっております。お気軽にお問い合わせください。日本の多くの大学がそうであるように、JUSTICE (https://contents.nii.ac.jp/justice) 所属大学の方々はオープンアクセス出版料金が免除されます。

2016年06月

空自機への「攻撃行動」とこれから日本に必要なこと

JBプレスでの織田空将の記事は良かった。

中国軍戦闘機による空自機への「攻撃行動」は政府の見解と多少異なるようだが、この種の見方が外に出てきてしまっているということは、恐らく実際の状況は本当に悪化しているのだろう。日本の主権が中国によって踏みにじられ、それを政府関係者がこのように公の場で認めているのである。日本が言う「尖閣問題は存在しない」という主張はそれこそ、そのまま存在せずに無くなってしまうのかもしれない。

もし織田空将の言うように、空自のパイロットが本当に戦域から離脱したのであれば、それ自体も問題であると感じる。武装し空を飛んでいても、中国軍機との戦闘エリアに入れば瞬く間にその空自機は逃げてゆく、というパターンを作り出しているのではないだろうか。今後の運用に不利に響く可能性がある。

このでの大きな問題は交戦規定である。既に何人もの専門家が指摘しているように、交戦規定の改正が必要である。日本の主権を守るために即した規定にすべきである。織田空将は「外交手段を取らない日本政府」を批判しているが、それだけでは足りない。外交だけではなく、軍事的な抑止力を戻すための措置が必要である。

変わりつつある世界の大学教育

今週のエコノミストは面白かった。特に興味を引いたのが、変わりつつある世界の大学教育についての記事である。

伝統的な教室、専攻、学部、そして教授陣を排除し、問題解決やグループ討議に焦点を置く新しいタイプの大学モデルが徐々に拡散しているようだ。授業では教授による講義の変わりにネット技術を教材として用い、学生が学ぶ環境を作る。この種の教育方法はイギリス、韓国、シンガポールなどに広がっているという。アメリカでも見ることができ、マサチューセッツ工科大の教授が辞職し、これをモデルにした新しい大学を近く開設するという。

面白い試みだと思う。私は基本的に最新技術をフルに用いた教育方法には賛成である。もちろん、技術のみに頼らず、授業の最初から最後まではあくまで教授本人が責任を持ち、本人の能力と努力で授業を行うが、技術の補助的な役割は今後おおいに生かすべきだと思っている。

政治学や国際関係学の授業では理論や概念の習得と応用、分析モデルの理解、世界政治の実際問題の理解など、特に最新技術を必要としない場合がある。従って学生数が多い場合は講義、少ない場合は colloquium が中心になる。私は一般的に後者のタイプを好むため、履行する学生の数は最小限に留めている。そんな中でも、授業の最中にネットから関連ビデオを引き出し学生に見せることも多々ある。

大学教育に関わる人間にとって大切な点は、上記の「教授陣を排除」しかねない点があるだろう。いわゆる技術革新が人間の労働力に取って代わる現象のことである。結果として教授職も減る。それに伴い政治学の研究も後退し、結果として国力の減退につながる。このような将来は喜ばしいものではない。

同じエコノミストにある別の記事で、近い将来どの職業が機械に取って代わられる可能性が高いかを、データを用いて論じている。そこに記されているのは、上位から、「テレマーケティング」、「会計士」、「営業」などが挙げられている。上位にはなかったが、「俳優」や「消防士」が挙げられているのは妙に納得した。

そのうちこのリストに大学教授も加えられることになるのだろうか? アメリカでは私はそうは思わない。あくまで伝統的な授業スタイルを好む家庭がアメリカでは今後も多く残るだろうと思っているからである。しかし少子化の進む日本ではどうだろうか? 失礼なのを承知で書かせて頂くが、大講堂で大勢の学生を相手に、議論もさせず、ロボットでもできるような一方通行の授業が続く社会ではこの新しいモデルがフィットするのではないかと、少し思ってしまう。

ミズーリにもいる野生のウサギ

アラバマでも野生の子ウサギが近所で雑草を普通に食べていたが、ここミズーリでも今朝現れた。前みたいに人参を切って餌としてあげよう。

image

image

20160626_184942

アメリカでの日本人専門家を育てるために

先日参加したマンスフィールド財団の日米専門家による会合の際、別の日本人の方と会話して幾つか考えることがあった。

これはこのブログで何度も書いているが、アメリカの政治学会において活躍する日本人の数は少なく、これは近い将来の日本の国益に否定的な形で影響を与えると懸念している。証拠もなく書けば、(私よりも)若い世代が特に育っていないのではないかと感じる。今後マンスフィールド財団のこのプログラム(博士号等要する)も、日本人の参加者が減ってしまい、日米のバランスが崩れてしまうのではないかと話していた。

日本政府は国を挙げて改革に挑むべきだと感じる。海外の学問の世界で活躍できる日本人研究者の競争力を上げるべく、アメリカなどでの社会科学の分野で博士号を望んでいる日本人の学生に政府からの奨学金を増やすべきである。返済不必要の奨学金(「奨学金」の本来の意味で)の変わりに、毎年どの研究をどう進めたかなどを記す報告書を提出させる。そして毎年日本に帰国する奨学生のシンポジウムを開き、海外で使っている言語で研究発表をさせる。その研究発表を論文にまとめ、英語で出版し、海外の大学、図書館等に送る。そうすることにより奨学生の海外での研究政策は継続することができ、同時に履歴書の内容も増え、海外での競争力が高まる。

海外から日本への留学生に潤沢な資金を与え、日本の研究をしてもらい、世界における日本の理解を深化させることの意味は理解できる。しかしそれだけでは一方通行に感じる。本来すべきなのは、日本国民の潜在能力を引き出すために、そして海外にその能力を証明するために必要な支援を政府が拠出し、その成果を出すようシステムを形成することである。アメリカなどの社会科学の博士課程は入学が非常に困難で、特にフルの奨学金をもらっての研究生活を始めるのは至難の業である。その最初の一歩を手助けすることで、強い意志と能力を持つ多くの日本人が世界で活躍できることになる。予算的にも無茶な額にはならないと感じる。この点については今後も考えていきたい。

久しぶりの大学キャンパス

image

トランプ候補の財政難

トランプ候補が窮地に立たされている。原因は財政難。今まで独立した財源を理由に人気を集めていたが、皮肉なことにそれが問題の原因になっている。Mother Jones の記事によると、実際に使える費用は1億3000万円ほどしか残っていないという。一方でクリントン側は40億を残しているようだ。

選挙キャンペーンの参謀役を交代させたりと、ここ最近では戦略の立て直しを図っている。今までは共和党内での指名を得るための地域ベースの運動だったが、今後半年の間はアメリカ全国区で民主党候補をライバルとした戦いを強いられる。そのための軍資金が欠乏する際、財源確保が必要になるが、コック兄弟等に見放されたトランプに勝つ見込みはどれほど残っているのか。

パリからブリュッセルまで

f0be4913東洋経済オンラインでヨーロッパの格安列車に関する面白い記事があった。

多少の時間のロスはあるが、かなりの低コストでパリからブリュッセルまで電車で行ける。時間に余裕があれば気にならないだろう。さらに電車もそうだがバスのルートも充実している。数年前に同ルートを電車、バス両方で通ったが、値段の違いはあれどかかった時間に大差はなかった。

日本でも導入すべきだと思う。著者は懐疑的だが、私は十分可能だと感じる。低コストの長距離バスに対する競争相手としては十分だ。ここ豪華列車の任期が指摘されているが、これは短距離の通勤型ルートではなく、長距離列車に適している。多くの人にとっての経済的な現実を考えれば、多少のサービスの悪化も気にならないだろうし、低コストのオプションは消費者に歓迎される。格安列車は日本各地に都心からの移動を促し、地域活性化も促進する。

核開発続けるオバマ政権

今週のディフェンス・ニュースの記事で、今後10年に渡りアメリカが核兵器をどう改良してゆくのかについて書かれている。

350億ドルの予算を使い、核ミサイル、潜水艦、爆撃機を更新し、核兵器を搭載可能な長距離巡航ミサイルも開発するという。

つい先日広島で核廃絶に向けての夢を語っていたオバマ政権の話である。

これが国際政治の現実である。そもそも核兵器は冷戦中も、冷戦後も世界の平和と安定に寄与している。大国の核兵器が可能にする相互抑止は今後も無くならない。

4月にワシントン大学で話した際も、学生から核兵器廃絶の可能性についての質問を受けた。8月号の治安フォーラムでもこのことについて言及する予定である。

上空から見るセントルイス

上空から見るセントルイスの中心部。街のシンボルであるゲートウェイ・アーチが見える。

image

ヒラリー・クリントンの副大統領候補のリスト

ヒラリー・クリントンの副大統領候補として考えられている人のリストがリークされたようだ。一人ひとりの短所と長所を分析している、良い記事である。リストアップされている有名どころはエリザベス・ワランティム・ケイン、そしてフリアン・カストロと、想定内のメンバーである。私は実はウェスリー・クラークも候補に入っているのではないかと思っている。

トランプはここ最近の炎上もあり、徐々にクリントンの勝利の可能性が高まっていると感じている。しかし一つ、トランプを一気に優勢にしかねないのは、911のようなアメリカ国内での大規模なテロ事件である。この種のショックは共和党のタカ派を中心としてアメリカ人を一気に結束させる力を持つ。それがなくこのまま行くのであれば、投票日の夜にはクリントンが圧勝するかも知れない。
月別アーカイブ