2003年時の日本政府のイラク戦争に関する報告書が、外務省により公開された。「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iraq/taiou_201212.html)というものである。

要旨は報告書内に記載されているためここでは省く。基本的には当時のブッシュ政権が指揮したイラク戦争を支持した小泉内閣の政策決定の過程を簡単に記し、その経験を元にいかに今後の日本外交を形成していくか、という事である。面白いことに、日本が支持したイラク戦争の主な原因であったはずのイラク側の大量破壊兵器が見つからなかったため、本来はその戦争の必要性自体が事後形式として問われるべきなのだが、この報告書ではその失敗については認めたものの、単に将来へのレッスンとして片付けられ、その失敗に関する責任をどう取ったか等は記載されていない。また、あえて「失敗」と記したが、その失敗を犯したのは外務省であるわけでもない。ブッシュ政権の間違った情報を鵜呑みにし、結果として不必要だったと思われているイラク戦争を支持したのは当時の小泉政権だったのである。

外務省が認める事はないだろうが、幾つか想像できるシナリオがある。その一つとしては、2001年の同時多発テロ後のアメリカの南アジアにおける軍事展開の必要性に触発され、外務省内での親米派の意見が強くなり、2003年の全く違うはずのイラク侵攻のアメリカ側の説得を盲目的に信じ、一方的に省内でそのアジェンダを通してしまった事。ただこれは極めて断片的な見方であるため、総合的に分析する必要があると思う。

機密保持のため、公開される報告書の内容はもちろん不完全である。それでも様々な角度から予期できる批判に対し、予め必要な答えを出している。その用意周到さと、公開する情報を厳しく制限しているのは理解ができる。複雑に絡み合う多くの利害関係や機密事項を扱う役所である。外務省とは部署も国も違うが、私の職場でさえ、仕事の内容や職場で起きる会話の95%はこのブログに書けないものである。空軍全体の政策や教育方針から授業の内容、カリキュラム等の細かいことまで多くの事をここに書きたいのはあるのだが、結果としてそれを公開することはない。実際、現実の5%ほどをオブラートに包み、しっかりとその含蓄を考慮してから、最終的にこのブログに載せているという悲しい次第である。

ここで一番言いたいのは、イラク戦争に関する最も重要な問題は外務省よりも当時の小泉政権の政策決定過程である。政権内ではどれほどのコンセンサスがあり、誰が反対意見を述べ、なぜそれが押しつぶされてしまったのであろうか。また、官邸の決定過程をサポートした外務省以外の省庁、ここでは防衛省、財務省、自民党幹部の意見と態度も非常に重要である。外務省含む官庁内で意見がどれほど分かれていたのであろうか。当時の省庁で重要な地位にあった役人数名の反対運動などが逸話的に出てきてはいるが、日本政府内での包括的な力学が明らかになるべきである。

今回、日本の外務省は一定の制限の元、大切な一歩を踏み出し、重要なイラク戦争の問題の情報公開に至った。今回の自民党の大勝と、安部政権の親米的な外交政策の性質と、今の日本にとっての当時のイラク戦争の重要性を考えるにあたり、これ以上の動きはあまり期待できない。それでも我々がイラク戦争における日本政府の本当の対応を知るには、外務省だけでなく他の関連省庁、特に当時の自民党執行部の真摯な態度と情報公開が必要である。