今回のエントリーは少し真面目に。4月後半に書いた小論文が残っていたので添付します。空軍の許可を経ておりますが、ここでの意見はあくまで私個人のものです。

-----
4月のオバマ大統領の訪日が意味すること

日米外交はある意味新しい局面に入りつつある。尖閣を日米安保条約第5条の適応対象になるとした4月訪日時のオバマ大統領の声明は、アメリカ議会でのここ数年の議論と決議を踏まえ、両国の代表による交渉で固められてきた日米同盟を更に強化する役割を持つ。


ただ一方で、肝心の尖閣地域での日本の統制力は不十分の状態が続いている。領土保全という観点からは日本独自の抑止力には限界がある。去年の11月に中国が一方的に設定した防空識別圏は日本側から有効な対処法が出せず既成事実化している。防衛省の統合幕僚監部が4月半ばに発表したデータによると、ここ数年のロシア軍機や中国軍機による日本列島付近での活動頻度は増えており、平成25年度における航空自衛隊の戦闘機の緊急発進の回数はここ6年で最高に達した。日本の領土を守るために必要な抑止力が、中国含む近辺諸国のアグレッシブさに追い付いていないのである。


今後の必要要因

今回の第5条の明記について考慮すべきことは、それ自体が自動的にアメリカの軍事行動を引き起こすという保証を意味しないことである。第5条の発動要件として、外部からの武力攻撃の存在がある。もちろん中国側も発動を防ぐために、正規軍以外の手段などを使ってくる可能性があるため、いわゆるグレーゾーンが存在する。加えて、仮に中国からの組織的な武力行使があったとしても、米軍動員のためには自衛隊からの反撃も必要になるだろう。更にはその様な武力行使の場合でさえも、アメリカはアメリカの憲法上の規定及び手続に従って対処するため、そこにはアメリカ国内の政治・経済的制約も加わるのである。


日本にとっては今回のオバマ訪日は日米同盟の強化と中国へのシグナルの送信という目的があるが、アメリカは今回の訪日を地域的な、より多角的なレンズで捉えており、日本に送るシグナルは韓国、中国、そしてフィリピンなどにも同時に向けられているのである。従ってアメリカは中国と今後も経済協力を進める一方で、尖閣含む東アジアの領土問題に対する態度も過去に比べより明確にしている。事実、フィリピンの軍事基地への米軍のアクセスもマニラとの合意を経て、今後は米軍のプレゼンスが強化されることになるだろう。


集団的自衛権の行使容認の議論が進み、自衛隊による国連平和維持活動での武器使用制限が緩和の方向に進み、4月1日には武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則が閣議決定された。離島防衛体制の法改正の話が進み、自衛隊法に対抗措置を新設する方針を固めた。しかし日本独自の防衛制度は不十分に見える一番の根本となっている憲法9条の改正に関する議論は膠着状態が続いている。また、国民総生産の1%以上は防衛予算に使えないという、冷戦時代から続く対外的な配慮も未だに残っている。尖閣の事実上の無防備状態は今後も続くのである。


外的要因と東アジアの安全保障

一方で日本国外の情勢も変化が続く。アメリカの「アジア回帰」が始まって3年ほど経つが、アメリカの軍事的な動きはオーストラリア、フィリピンやシンガポールなどで見られる一方で、アメリカの戦略的意図を理解するのは難しい。アメリカの Foreign Affairs 誌の5月・6月号では知日派と呼ばれるカート・キャンベルとイライ・ラトナーが、アメリカのアジア回帰のディフェンスをしているが、アメリカ国内でもアジア回帰に対しては専門家の間で様々な意見が交換され、十分なコンセンサスは得られていないのが現実である。ここ数年の中近東、南アジア、そして東欧での不安定な政情、そしてアメリカ経済の破綻、軍事予算の削減とその長期的なインパクトを考えれば、あの時点でのアジア回帰は理解できる一方、それが今後どれだけ持続可能かに関しては強い疑問が残る。


東アジアサミットや環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などの強化を通して、アジア太平洋には今後も関与していこうとのアメリカの意図があるのに関わらず、東アジアの多くの国々はアメリカの外交政策の不透明さに懸念を抱いている。一環したコミットメントのシグナルを送り続け、東アジア諸国の不安を払拭するのはそんなに簡単なことではないのである。


最近のウクライナが意味すること

アメリカの戦略的意図が不透明であるとの点については、3月に私が台湾の防衛関係者と意見交換した時も感じられた。彼らが特に興味を持っていたのは、今回のウクライナの混乱に対してアメリカがどのような対応を取るかという問題だった。台湾から見る場合、ウクライナの情勢が台湾地震の戦略的状況と被る部分があるからである。つまり、ウクライナのような地政学的に重要な地域の「非」同盟国に対して、アメリカがどのような戦略的思考をしているのか、そして有事の際の台湾海峡でどこまで台湾、そして東アジアの秩序を守る意思があるのか、同じ非同盟の関係にある台湾としては大切なサバイバルの問題だからである。


もちろん、現在の台湾は馬英九政権の下、中国側と経済・文化交流を強化しつつ、政治的には現状維持の政策を取り続けている。武力行使もしくは台湾の一方的な独立の動きを最小限に抑えることにより、台湾海峡は今、政治的に安定している。ただ同時に中国人民解放軍の増強に従い、中国との軍事アンバランスはここ数年で開いてきている。東ウクライナやクリミア半島で見られたような内紛が仮に台湾で独立運動の形で発生した場合、中国軍が台湾を制圧しに来たときのシナリオは恐ろしいものになるというのは理解ができる。


日本でもウクライナでの出来事が日米同盟に何を意味するか心配する声もあるようだが、ウクライナと日本の間には大きな違いがある。ウクライナと違い日本はアメリカの同盟国であり、経済大国である。クリミア半島には元々ロシア人が多いのに対し、尖閣は無人島である。また、クリミア半島という大きな地域をロシアが事実上併合した一方、尖閣は小さく、日本領である。ロシアはウクライナのエネルギー資源を牛耳っているが、日中間の経済相互関係はそこまで偏ってはいない。従って今回のウクライナの情勢は将来の日米同盟にはとりわけ有益な分析モデルにはならないのである。


まとめに代えて

日本の防衛政策にはある程度の変化が見られる一方、今後それらが十分な働きをするかはまだ不明な部分が多い。今後も中国は尖閣沖での活動を更に活発化するだろうと仮定すれば、一連の変化は果たして十分であるかに関しては自信が持てない。日米同盟の進化に並行させる形で、日本国内の防衛政策をより早いペースで整え、自国の領土保全をより完全に守るべく、必要な準備と対策が必要になってくるだろう。そのような意味では、今回のオバマ大統領による訪日は良い方向に進めることができるのではないかと思う。


ここでの表現と見解は著者個人のものであり、必ずしもアメリカ政府、国防総省、もしくはアメリカ空軍戦争大学の政策を反映するものではございません。